「SPY〜Reservoir Dogs〜」その3

        3 


倒幕側、壬生浪士組、共に密偵として送り込んだ者達が死体で見つかる。すなわち、どちらにも密偵が紛れ込み、情報を流しているということである。


倒幕側では中岡が、壬生浪士組では土方と山南が、誰に知られることもなく密かに諜報活動を行っている。

そんな中・・・倒幕側は倒幕に熱く燃えているのであった。



敵の目を欺くために乞食に変装した桂の居場所を
突き止めた壬生浪士組であったが、命を張った
幾松の機転により、難を逃れる。
8.18の変以来、我らは政権を奪われ、攘夷もままならず、未だ日本は外国の脅威にさらされ混沌としている。
不甲斐ない幕府をぶっ潰し、今こそ我らの手で新しい日本を創ろう!討幕じゃ!
しかし、慎重論の桂は首を縦には振らなかった。
長州に倒幕の先陣を切るよう上海から買い付けた
新式のライフル銃とガトリング砲を魅せ付け、
桂の意思決定を仰ぐ。
それでも心揺らぐ桂。
その姿を己に重ねあわせる吉田稔麿(工藤宏二郎)。
この国を変える為に人を殺すのは正義なのか・・・。
稔麿から君は正義や夢の為に人を殺せるかと聞かれ
姉の言葉を思い出す出海。
「男なら胸張れるくらい大きな夢を持って生きてみろ!」
諜報活動をしていた古高俊太郎が壬生浪士組に捕まり、ひどい拷問をかけられる。しかし、古高は何一つ倒幕側の情報を漏らすことはしなかった。
古高が捕らわれた事を知った桂は
自分が囮になるので彼を奪還して欲しいと仲間に頼む
密偵として倒幕側に潜入していた出海は、古高奪還の情報を土方と山南に伝える出海。
「宮部が古高奪還に動く。桂は伏見の寺田屋へ向かったがこちらは囮だ」
壬生浪士組に戻った土方と山南は、古高奪還の件を皆に話すが、その情報筋を聞かれても「密偵から」
としか応えず、一同納得しないまま二班に分れ、寺田屋に囮として現れる桂を捕らえる作戦を練る。
一方、寺田屋では討幕派の皆のやり方が気に入らず、
戦を止めて欲しいと中岡に迫る白峰。登勢も一言。
壊れた物は作り直せばよいが、人の命は直せません。
「御用改めだ!先程桂小五郎、河上彦斎が入るのを見た。御公儀に対し反逆の疑いあり、屯所までご同行願いたい」そう言い寺田屋に傾れ込だ土方隊に対し、
桂は「僕には責任がある。長州という国を存続させる為、そして多くの命を預かる責任が。だから僕は僕なりの答えを出すまで君達に捕まるわけにはいかない」と逃げる。
一方、古高奪還を屯所にて迎え撃とうとした壬生浪士組の近藤隊であったが、事前に倒幕側に情報が洩れていた為、まんまと宮部たちに古高を奪われる。
八木邸を壬生浪士組の屯所として貸していた
八木まさが倒幕派の奪還騒動に乗じ産気づく。
屯所内では山南と出海が鉢合わせをする。「どういうつもりだ」と声を掛ける山南に対し、
「これも仕事だ」と応える出海。「うかつな行動はとるな!伊織さんの身が危うくなるぞ」と喝を入れる山南。
産気づいたまさのお産を手伝う天童静馬。
「こんなの初めてじゃ〜人間が生まれるっちゅう事は
新し歴史が生まれるっちゅう事じゃ・・・凄いぞ!」

奪還した古高の死に際を見届ける陸奥出海。
介錯をした出海は心の中で叫ぶ。
「その光景はまるで蝋燭の炎が一瞬大きく燃え上がり
そしてあっけなく消えた。1人の歴史が終わった。
姉貴。俺はまだ終わりたくない!」
古高が立派な最期を遂げたことを告げられた桂は
古高との約束を果たそうと皆の前で誓う。
そして稔麿もまた、人を斬る葛藤の迷いが消えていた。
戦をしてもこの国は豊かにはならないと皆に訴える白峰に対し、桂の意志は変わらず
「それでも今の僕はやらなければならない」と言い聞かせる。皆が去った後、幾松が白峰に語った。
「男の阿呆を護るんがうちの務め、意地でも護る。ただそれだけ」…その言葉が白峰の心の琴線が触れた。
倒幕側にこちらの動きが読まれていた事に疑念を抱く隊士たちは、持ってきた情報源を明らかにしろと土方に詰め寄るが、答える気配はない。
危機感を持った近藤は 武田、斎藤、(天童)、奥沢を呼びつけ、密かに密偵の正体を探れと命令する。彼等も気が重いながらも引き受けることした。
渦中の土方は密偵 出海から「土佐の中岡慎太郎が
内密に会って話しがしたい」との連絡を受け、
味方の目を盗んで中岡と会うこと決めた。
しかしお互いに心に秘めたモノがある似た同士と
感じながらも相容れぬ者と悟り、その場を後にする。
攘夷派が結集する場所の目星が付いたと出海から
報告を受ける山南。内部に潜入している密偵の正体を
突き止めて欲しいと依頼する山南に、
これ以上人の命を売りたくはないと訴える出海。
その様子を陰から目撃していた武田と奥沢の目の前で
突如、山南と出海が河上彦斎に襲われた。
斬られた出海を敵の密偵である天童が助ける。 命を絶たれる寸前に武田と奥沢が助けに入る。
河上は武田の息の臭さに絶えられず退散。
壬生浪士組では山南が密偵ともども口封じの為に
襲われた事、そして、土方が中岡慎太郎と密会して
いた事など、監視していた斉藤達から報告されると
沖田以外の者達は土方に腹を斬れと迫る。
今は全てを語る事は出来ないと皆に土下座する
山南に対し、我等が信用できないだけだと、
一同にそっぽを向かれる。
残された近藤、土方、山南、沖田に対し
自分達でケジメをつけろと喝を入れるまさ。
伊織もまた弟 出海と重ね合わせ、どんな思いで
壬生浪士組は創られたのか、
初心を思い起こせと投げかけるのだった。
天童たちが出海を運んだのは伊織のところだった。死んだと思っていた弟が目の前に現れ、手当てをしたものの怒りが治まらない伊織。
かたや、姉を救うために密偵にまで身を落とした出海は言葉を失う。そんな出海に対し、伊織は「お前はあの時死んだ。出て行け」と突き放す。
密偵としての存在を知られ追われる身となった出海に対し、天童は世界地図を見せ「お前も龍馬と一緒に黒船に乗って世界の海を旅せんか」と誘う。
初めて見る広い世界に目を細める出海。姉貴も一緒に行こうと誘うが「お前だけ行きなさい」と何かを決心したかのような顔つきで去る伊織を見つめ、
天童は赤子が生まれた時の事を思い出し、悟る。
「人を斬るのがクリーニングだと思っていたが、人を生かして新しく生まれ変わるってことが、人を洗濯するという意味」だと。
屯所では近藤が沖田に懐中時計を見せながら
「昔、時間にだらしない俺にダチが買ってくれた。
まさにこれが今の俺達。長い針が歳で、短い針が俺。
そしてこの一番細いせわしなく動いてる奴がお前だよ」

そう言い、沖田を走らせ、土方をいざない、後ろから
ゆっくりと歩いて皆を見守る様子の近藤。

「歳が俺の前を行く…で、俺はその後をゆっくりと進む。お前はその周りをちょこちょこと走りまわるんだ。
で、この文字盤に書かれている数字が皆だ」
「武州多摩の田舎者だった俺達は今、壬生浪士組と
して時を刻んでいる。この中でぎゅっと詰まっていて
時には煮詰まることもある。だが、こいつは止まれば
巻きなおしが利くが、俺達はまき直しはきかねぇ。
動けなくなるまで進むだけよ!」
「話しがくせぇよ」…苦笑する土方。
そんな土方に近藤がもう一つ懐中時計を出し渡す。
「これはあの時の礼だ。こっちの方が高いんだからな」
苦笑しあう3人。
「よし、時間は合わせてある。行くぞ!」



倒幕側では、桂が己の迷いの為に痛みから逃げ、綺麗ごとを並べ、己を正当化しようとしていた事を詫び、心が戦ひとつに決まった事を伝えていた矢先、宮部から思いもよらない言葉を投げかけられる。
「君はこの戦いから身を引いくれ…」戸惑う桂に宮部は続ける「君のような英雄の手を血で汚すわけにはいかない。混乱に乗じてこん都から逃げてくれ」と。
さらに皆の声も続く「あなたに死なれては困るんです。卑怯者になっても生きて、桂さんの思い描く国を創ってください!」と笑顔で語る久坂、寺島、吉田。
その言葉の痛みに震える桂・・・「僕は!どんな事があっても逃げきってみせる!そしてこの手で必ず新しい国を創り上げて見せる!必ず・・・必ず」と誓うのであった。
壬生浪士組もまた重い雰囲気の中、倒幕派を捕らえる為、討ち入りの支度をしていた。・・・そんな空気を一掃したのが土方の言葉だった。
「俺達は変化を求め此処へ来た…俺はこの近藤という男をこの国の頂点に立たせたい、この男の為なら俺はどんな事でもやる。くだらねぇと言うわれようが、てめぇの身がくだけようが、
この男がてっぺん立つまで俺は俺の意地をつらぬく!皆にはこの近藤という男をささえてもらいてぇ!信じて付いてきてもらいてぇ、頼む!」頭を下げる土方に、皆の士気も初心と共に戻って来た。
「ではこれより!不逞浪士の補縛に向かう!」近藤の言葉に一同、池田屋と四国屋へ分かれて出動するのだった。
戦へと旅立ってゆく皆の後姿を見て、白峰はつぶやく。
「私は犠牲の上にあぐらをかいているのですか?
誰一人、犠牲にならないですむ方法はないのですか?」
沢村 「考えるな。感じるんだ駿馬!さぁ、わしを坂本
さんと思うて飛び込んでこい・・・お前はお前の
思うがままに動け、それでええと思う」 うなづく白峰。
走り去る白峰を愛しく思う沢村を見て、登勢が一言。
「駿馬ちゃんは坂本さん一筋やさかい、諦めよし」


四国屋では中岡が待ち受けていた「ウェルカム!やはりこうなるしかないのう!」 原田「待ってましたってか?」土方「かまわねぇ。全員斬り捨てろ!桂を探せ!」
戦いの最中、短刀を持った伊織が土方と山南の前に現れ、弟を護れなかった自分のケジメとして刃を突きつける…が、出海が飛び込んでそれを止める。
姉貴は俺のようになってはいけない。ケジメは自分でつけ俺は変わってみせる…と、土方に斬りかかる出海。
池田屋に向かった近藤隊…いいか、死ぬな。行くぞ! 近藤「宮部さん。無駄な血を流す事はないかと」と告げる言葉に宮部は一言。
「維新志士の流す血に無駄などなか」と。・・・賽は投げられた・・・。
北添は龍馬との夢の実現の為に逃げようと図るが、望月は「夢より大事な事がある。ここで逃げたら白峰や沢村、龍馬さんに合わす顔ない」と踏み止まろうとする。
そこへ昔、共に坂本と夢を語りあった天童が現れ「龍馬さんの洗濯するって意味は、人を生かす、人が新しく生まれ変わるって事じゃ」と説きに来たが、
無我夢中の二人は天童と認識することなく斬りかかってしまう。そして天童もまた、身に染み付いた人斬りの癖が出て、ふいに二人を斬ってしまう。
白峰に責められる天童。「わしゃ龍馬に嫌われるのう」 桂と幾松を逃がす河上に斎藤が叫ぶ。
「それほどの腕がありながら何故あんな連中といる?」
好きになった者を護る・・・ただそれだけ理由が
斎藤にはすぐに理解出来なかった。
再び池田屋では、沖田に斬られた吉田稔麿が久坂、寺島に「長州を頼みます」と言って息を引き取る。 逃げている桂…ふと何かを感じ振り返る。


池田屋では死闘が繰り広げられていた…が、最後のひとりも壬生浪士組に囲まれ、宮部の命もここで尽きるとなるその時「おまちを!」と登勢の声が皆の動きを止めた。
最後にひとくち肥後の酒を宮部に呑ませたいと進み出る。美味そうに飲み干す宮部。
そこへ満身創痍の出海が姉に付き添われ現れる。「宮部さん。あんたも世界の海に連れて行ってやる!だからどうか俺に介錯を!」
うなづく宮部に対して 「俺も死ぬなら、こんな熱い思いを抱いて死にたい」と願い、宮部の首を落す出海。


天童もまた熱い思いを抱いていた。中岡に約束どおり人斬りは終いにすると報告をしに向かう途中、壬生浪士組に潜入していた別の密偵=奥沢に背後を斬られる。
妹のおゆうに助けられるが、それでも天童は中岡に刃を見せず、白峰が言った龍馬の懐深い心で中岡に接しようとする。
中岡もまた自分の心を吐露する「身分差別で命を奪われる事はつまらん事じゃ、誰もが自由で平等…わしは龍馬のそんな言葉に震えた!こいつの為なら、わしは何でも出来ると」
1人で背負いこんで来た中岡を、涙ながらに抱きしめる天童・・・が、中岡の刃が光る・・・倒れる天童。 中岡 「すまんのう。まだまだわしにはやらにゃならん事がこじゃんとあるんじゃ。」 
自分が密偵となったことで、命を奪ってしまった者達の遺髪を掲げ、
フラフラになりながらも、海を目指して歩く出海。
「お前達も一緒だ!初めての黒船、初めての世界…」
「龍馬の下に行こう。もう人斬りはしまいじゃ…日本は広い海の穏やかな波の上に浮いている小さな船だ。
だがその穏やかな波が突如牙をむいて襲いかかって来よった!外国の脅威という名の大きな波が…
だから日本は今変わろうしている。この日本はもうじき生まれ変わる。自分自身も生まれ変わらんといかん!」

俺、変われたかな?
陸奥 「波の音だ!海だ・・・姉貴、海が見える!みんな海がみえるぞ!」
伊織 「出海・・・そうだ。海だ!広い海がみえる!だからほら歩け!行くぞ!歩け!」
おゆう「兄さん歩け!しっかり歩かんと龍馬に置いて行かれるぞ!しっかり歩くがじゃ!」
天童 「おう!歩け!歩け!歩け!歩け!」
一同 「歩け!」

【 終演 】


ご来場いただいたお客様、スタッフ&出演者の皆さん、ご協力いただいた関係各位さま、心より御礼申し上げます。


        3 


写真提供:スプーキーズ
文責:美月舞鈴

当ホームページ内に掲載の情報・画像などを許可なく複製・転用・販売することを禁止します。 Copyright(C) Spookys All Rights Reserved.